しかも、読んだことのないものばかり。ここに描かれているのは手塚自身の戦争体験を下敷きにした話(主人公の大寒鉄郎(おおさむ)は、もちろん手塚治虫(おさむ)から来ている)から、ナチスの話、聊斎志異のような怪奇譚を戦争に絡ませたものなどと多彩である。
ちょっと前までは漫画といえば少年誌が主体だったので、この短編集も初出はみな少年誌である。つまり、手塚は子供達にこれらの話を読ませたいと考えたわけだ。子供でもとっつきやすいような導入から話を始め、戦争の悲惨さ、不条理さをきちんと描ききる。手塚が子供達に伝えようとした、その思いに、泣ける。
なお、『女郎蜘蛛』では戦争画(戦時下の画家達が戦意高揚のために描いた絵)について触れてあったり、『処刑は3時に終わった』では無慈悲な殺戮を行った者に、自分自身の死をつぶさに見せ付けるという罰を与えるという設定など、個人的には興味深い点が多々あった。
戦争への嫌悪と憎しみが、痛いほどに伝わってくる短篇漫画集おすすめ度
★★★★☆
戦争の醜さ、悲惨さを自伝風に描いた話が多かったですね。人間の尊厳と自由を奪う【戦争】を嫌悪し、強く憎んだ作者の思想が、赤裸々に描かれた作品集。それぞれの作品で印象に残ったところを、スケッチしてみました。
■「紙の砦(とりで)」(1974年初出)・・・・・・主人公・大寒鉄郎(おおさむ てつろう)の、「だれのせいだよ・・・こんな戦争」の台詞が忘れられない。
■「新・聊斎志異 女郎蜘蛛」(1971)・・・・・・蜘蛛奇譚の佳品。主人公の画家の、「戦争が正義なんですか?」の台詞が重い。
■「処刑は3時におわった」(1968)・・・・・・収録作品中、唯一のナチスもの。手塚治虫の名作『アドルフに告ぐ』を未読の方は、そちらもぜひ!
■「大将軍 森へ行く」(1976)・・・・・・「正義の軍隊なんて、どこにもいない!」の台詞が、胸に残る。
■「モンモン山が泣いてるよ」(1979)・・・・・・白木の箱の中にただ一枚、【英霊】と書かれた紙が入っているコマに、ショックを受けた。
■「ZEPHYRUS(ゼフィルス)」(1971)・・・・・・周りから白い目でにらまれながらも蝶を追う少年の姿に、まぶしいものを感じた。
■「すきっ腹のブルース」(1975)・・・・・・終戦直後の日本を舞台にした作品。漫画の仕事を依頼された主人公・大寒鉄郎の、「一日に百枚ぐらいかきますっ」の台詞から、手塚治虫の強い意気込みが伝わってきた。
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