昭和の大事件の一つとして、昭和天皇崩御とその直後の手塚治虫の逝去をあげたのは、なんと吉本隆明だった。いまや、「バナナ」の親父くらいにしか今の人は想ってはいないのだらうが、あの吉本が(新喜劇ではない、念のため!)手塚のTVアニメを「バナナ」と一緒に見ていたというのだ。だから「バナナ」がいい子に育った、とそこまでは言ってないが、「鉄腕アトム」は安心して子供に見せられる、「いい番組」と考えていたやうだ。
この本の「売り」は、手塚版「ファウスト」のVer3である。「ファウスト」「ネオ・ファウスト」は、いずれもマンガであったが、今回発見されたのは、「ネオ・ネオ・ファウスト」のノヴェライズ・シナリオである。しかし、はっきりいって、それほど騒ぐほどのものでもない。手塚とビートルズものなら、とにかくなんでも、という私のようなファンならいざ知らず、一般読者はタダ読みで済ませばいいだらう。
論考は精選取捨すべきだったおすすめ度
★★★★★
膨大な作品群からなぜか選ばれた3編のマンガに、それぞれなかなか味があって感心した(選んだ人に)。
BJが茶漬け食ってる。で、その姿に惚れると。これはカンペキだ。
「朝日ジャーナル」増刊掲載の論考は選別されておらず、どうかと思うもの(中島某)もある。
長谷川つとむ氏の「ファウスト」論は、いつも読み応えがあり、これ以上のものもある気がする。
呉智英先生の論考二篇、それに星さんのエッセイは、さすが。
荒俣宏の「火の鳥 太陽篇」論、(呉先生はお嫌いな)副田義也の「陽だまりの樹」論なんか、入れてほしかった(後者はあまり覚えてないが)。
対談は、手塚さんはたいていの場合、本音でなくサービス精神で話す方で、本書収録のものも例外たりえないだろう。
手塚先生は、後のほうになるほど、充実しているのが分かる。すごい。
手塚本、これからも各社いろいろ出してもらいたいものだ。
手塚治虫の魅力、手塚治虫への思いがつまった一冊おすすめ度
★★★★★
手塚治虫の「エッセイ」、「シナリオ&小説」(『ネオ・ファウスト』『火の鳥』『傍のあいつ』『あの世の終り』『ハッピーモルモット』)、「マンガ」(『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』から各一篇と、『ゼフィルス』)、「講演」、「対談」(横尾忠則、萩尾望都、石ノ森章太郎、種村季弘、各氏との四篇)と、開高 健、梅原 猛ほかの「手塚治虫論」、中島 梓、大澤真彦ほかの「手塚治虫『ベスト10』作品解説&ダイジェスト」で構成された一冊。文庫本・全722頁の厚みもさることながら、分量にふさわしい読みごたえがありました。
特に印象に残った文章は、次の三つ。
◆「エッセイ」の章〜『銀河鉄道の夜』を読む(1985年)・・・・・・宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に寄せたエッセイ。日本からフランスに向かって飛ぶ旅客機の中、夜の景色を眺めながら『銀河鉄道の夜』の物語に思いをめぐらす手塚治虫の思索が、美しく結晶化したかのような文章。味わいがあります。
◆「対談」の章〜漫画家・萩尾望都との対談(1977年)・・・・・・手塚治虫がレイ・ブラッドベリについて語るところとか、萩尾望都のマンガ『11人いる!』の登場人物の中でお互いの好きなキャラを語るところとか、「へえーっ。そうなんだー」と思って。
◆「手塚治虫論」の章〜梅原 猛「死・復活」の永遠(1989年)・・・・・・1989年2月9日死去した手塚治虫を悼む文章のなかでは、格別の魅力と読みごたえを感じました。梅原 猛の『ギルガメッシュ』に強く打たれた手塚と、手塚治虫の『火の鳥』のテーマとの相似を語る梅原と。「この世」の梅原から「あの世」の手塚へ宛てた文面の熱意と無念さに、胸が熱くなりました。
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